「産声がきけますか
元気に産まれてきますか」
陣痛の波がおそうたびに
君の心音が弱くなるのを
何となく気にはしていたけど
君がおなかの中で苦しがっていることを
夫の手をつかみながら
先生から聞いたとき
何のためらいもなかった
おなかを切ること
今すぐにでも君が出てこなければ
君があぶないかもしれないのに
君が通る道はまだまだひらかないらしいのです
考えてみれば君が私のおなかの中に
住みはじめてからというもの
「妊娠大百科」とか「出産百科」とか
いくつかの雑誌やら本やら
いろいろ読んできたけれど
妊娠中毒症とか高血圧とか
帝王切開とかいう項目は
私には関係ないと思い込んで
全く飛ばして読んでいたのです
君が産まれる二日前の検診で
入院勧告されるまで
むくみで結婚指輪を
小指にはめていたというのにね
君が産まれる前日に入院し
その日の夜病室の窓から君が
青い船に乗って
空からやってくる夢をみた
それから夜中の三時頃
陣痛がはじまったのです
君が産まれてきたいと
サインを送っていると思うと
その痛みが嬉しくて
夫に早く知らせたくて
待って待って
病室から家に電話をかけたのは
もうすぐ夜明けがやってくる
早朝五時半のこと
下半身麻酔だから
産声はきけること
今なら元気な君に会えること
手術台にのぼる私
何もこわくなかった
なぜか全て心をさらけ出していた
手術台の上で麻酔のかかったお腹なのに
君がスルリと出ていくのがわかった
その後何秒後だろう
君の産声があがった
「きこえるよ 赤ちゃん きこえてるよ」
私は思わず君の声にこたえる
それからすぐ看護婦さんの
「3456グラム 男の子です」
と遠くでさけぶ声がし
君の元気な泣き声が重なってきこえてくる
3・4・5・6なんて
サービス精神たっぷりの体重ねなんて
思っているうちに
いつのまにかそのまま眠ってしまって
君をはじめて見たのは
そのあと起きてからのこと
ふっくらとして、すごくかわいくて
「こんなかわいい赤ちゃん初めて見た」と
どのお母さんもそう思うらしいのだけれど
私も例にもれず本当にそう思えて笑えた
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